仕事が原因で病気になった方
労働災害(労災)は、業務中の事故(墜落・転倒・交通事故など)が原因の場合に認められるのはもちろんですが、それに限られるものではありません。
仕事が原因で病気を発症した場合(いわゆる職業病)には、それが必ずしも業務中に発症したものではなくても、仕事と病気発症の関連性(因果関係)が認められれば、労災にあたります。
次のようなケースは、その代表例です。
- 暑い場所での作業で熱中症になった
- 身体に過度の負担を与える作業を続けたことで腰痛や神経痛になった
- 騒音のある場所での作業で難聴になった
- 有害な化学物質等にさらされて病気になった、中毒やアレルギー症状を起こした
- 長時間労働などの過労によって、脳血管疾患(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血など)や心疾患(心筋梗塞など)を発症した
- 上司からの酷いパワハラによって、精神障害を発症した
労災による補償の対象となる疾病は、厚生労働省が定める「職業病リスト」で列挙されています(労基則35条別表1の2)。これに該当する病気で、仕事との関連性が認められれば、治療費や休業損害などの補償を受けることができます。
脳・心臓疾患の労災認定について
労災による補償の対象となるかどうかがよく問題となるのが、脳梗塞などの「脳血管疾患」や、心筋梗塞などの「心疾患」を発症したケースです。
これらの疾病は、加齢、食生活、生活環境などの日常生活による諸要因や遺伝により形成された血管病変等が、徐々に進行・増悪することによって発症するものです。
しかし、仕事が特に荷重であったために、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪した結果、脳・心臓疾患を発症することがあります。このような場合には、仕事が病気を発症する原因になったものとして、労災の対象となります。
厚生労働省は、脳・心臓疾患の労災認定基準を定め、対象となる疾病(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、重篤な心不全、大動脈解離)の発症が、労災と認められるための基準を示しています。
この認定基準によれば、次の(1)から(3)のいずれかの要件を満たすことが必要とされています。
(1)異常な出来事
発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的および場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したことをいいます。
例えば、業務に関連した重大事故に関与するなど、突発的に極度の精神的・身体的負荷がかかったような場合がこれに当たります。
(2)短期間の過重業務
発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において特に過重な業務に就労したことをいいます。
例えば、発症前日~1週間前に特に過度の長時間労働や連続勤務が認められるような場合がこれに当たります。
(3)長期間の過重業務
発症前の長期(発症前おおむね6か月)にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したことをいいます。
「特に過重な業務」に当たるか否かは、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張を伴う業務か否かなどを考慮して判断されるものとされています。
労働時間についていえば、発症前1か月間に100時間、または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働(1日8時間、1週40時間を超える労働)が認められるケースでは、業務と発症との関連性が強いと判断されています。いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる基準です。
ただし、時間外労働が「過労死ライン」に到達していなくても、「労働時間以外の負荷要因」(不規則な勤務時間、移動・出張の多さ、心理的・身体的負荷、劣悪な作業環境など)が認められる場合には、それらの要因を総合的に考慮して業務と発症との関連性を判断するものとされています。
脳・心臓疾患の労災認定基準は以上の通りです。労働基準監督署などの行政機関は、基本的にはこの基準に沿って、労災かどうかの判断を下します。
ただし、このような認定基準は、裁判所を拘束するものではありません。
裁判所は、行政の基準に拘束されることなく、労災を認めるべきか(業務による負荷が、基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させ、脳・心臓疾患を発症させたと認められるか)を、個別の事案に応じて柔軟に判断します。
したがって、時間外労働の時間数が不足しているなど、労災認定基準には当てはまらないケースや、労災申請をした結果不支給の決定が出てしまったケースでも、裁判所が行政機関の判断を覆し、労働者が救済されることがあり得ます。
専門家にご相談を
病気を発症したことが「労災」と認められるためには、病気の発症・健康被害を引き起こすような「有害因子」が職場に存在し、業務中さらされていたことなど、業務と発症との関連性が認められる必要があります。
そのためには、必要十分な資料を収集し、実際の勤務状況・勤務態様(労働時間など)について、適切な主張・立証をしていくことが非常に重要です。
したがって、労災の申請などを検討される際には、まずは労働問題に精通した専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
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